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122019-04

複素リスク分散ポートフォリオ

はじめに

ここ最近,「人生100年時代」という言葉を耳にすることが増えてきたような気がする.それに合わせるかのように,銀行や証券会社は「人生100年時代に合わせた資産形成」といったようなフレーズをよく使うようになってきている.実際にこれらの金融商品についての説明資料を眺めていると,ポートフォリオという単語を目にすることが頻繁にある.はて,ポートフォリオとは一体なんなのだろうか...?本稿では金融資産のポートフォリオの一つである複素リスク分散ポートフォリオについて解説する.

概要

金融資産のポートフォリオを生成するとは,適切な配分で複数の金融資産を保有することである. その際に, 数理最適化の手法が応用されている. 本稿ではポートフォリオ生成に関する基本的な内容を復習し, 複素リスク分散ポートフォリオの概要を説明する.

本稿の内容は以下の通り.

  • リターンとリスク
  • 分散投資
  • 複素リスク分散ポートフォリオ
  • 実証結果
  • 今後の発展

論文

Yusuke Uchiyama, Takanori Kadoya, Kei Nakagawa, Complex valued risk diversification, Entropy, 21, 119 (2019) URL: https://www.mdpi.com/1099-4300/21/2/119

リターンとリスク

時刻tにおける金融資産の価格をとすると, 価格のリターンは

または

で定義される. 後者は特に対数リターンと呼ばれている.

一般的にリターンはランダムな変動を示すため, その統計量を使って評価される. リターンの期待値を期待リターン, 標準偏差をリスクと呼ぶ. 一般的に,リスク回避型の投資家の取る行動は 期待リターンを最大化し, かつリスクを最小化することであると言われている.

分散投資

投資のリスクを抑えるには分散投資が良いと言われている. 例えば, たまごをカゴに入れて運ぶ際に 一つのカゴしか使用しないと転倒事故が生じた際にはすべてのたまごを割ってしまう恐れがある. この事態を回避するためには, たまごを複数のカゴに分散させて運べば良い. このように, リスクを一箇所に集中させずに分散させることを分散投資という.

投資対象としての金融資産がN個あるとする. それぞれのリターンをとすると これらの重み付け和は, を重み係数とすると

と表される. このように,複数の金融資産の重み付け和をポートフォリオという. すなわち, はポートフォリオのリターンである. 投資家がポートフォリオのリターンがであることを期待した際にリスクを最小化するような状況を想定する. これはポートフォリオの共分散行列をとすると

を最小化するについての2次最適化問題となる. これにより得られたが投資家が所望するポートフォリオを 提供する. このようなポートフォリオを平均分散ポートフォリオという.

複素リスク分散ポートフォリオ

平均分散ポートフォリオはリスクの大きさのみに注目しているため, ポートフォリオの重みに極端な偏りが生じることが しばしば起こる. この課題を解決するためにリスク分散ポートフォリオという手法が提案された. この手法では, ポートフォリオの共分散行列に主成分分析を適用することで主軸ごとにリスクの寄与度を相対化し, それに応じた 比率でポートフォリオを構成することで個別の金融資産からのリスクの寄与を分散させている.

リスク分散ポートフォリオは気象物理学の分野で開発された経験的直交関数法に着想を得ている. 経験的直交関数法には, 時系列データの自己随伴行列(リスク分散ポートフォリオではリターンの 共分散行列に対応)の主成分分析を用いたものの発展型として, 解析信号の自己随伴行列に対して 主成分分析を行うことで複素直交関数を導出するものが存在する. 複素直交関数は振幅に加えて 位相差の情報を含むため, 対象とする時系列データに内在する時間遅れに関する動的な情報を 抽出することができる. この手法を用いたリスク分散ポートフォリオを複素リスク分散ポートフォリオと呼ぶ.

リターンの時系列に対して, ヒルベルト変換は

と定義される. これは連続時間の時系列に対するものである. 離散時間の時系列に対するヒルベルト変換は,

で与えられる. これにより, リターンの時系列に対応する解析信号は, 原信号を実部にHilbert変換した信号を虚部に もつ複素変数時系列

で与えられる.

解析信号から複素共分散行列が

のように推定される. 複素共分散行列は正定値エルミート行列であるから, すべての固有値は正の実数値をとる. それらを降順に並べてとする. また,を対角化するユニタリ行列をとすると主軸上に変換された重み係数は

で与えられる.この重み係数と固有値とを用いて

を定義すると, の相対頻度分布は

で与えられる. この相対頻度分布に対する情報エントロピーは

となる. これに重み係数に関する拘束条件を加えると, ラグランジアンとして

が得られる. はラグランジュの未定乗数では拘束条件を表す. このラグランジアンの最適化問題の解として得られる重み係数が複素リスク分散ポートフォリオを与える.

実証結果

6種類の債券, 6種類の株式市場インデックス, 5種類の対米ドル通貨に対して, リスクパリティポートフォリオ(RP), リスク分散ポートフォリオ(MRD), 複素リスク分散ポートフォリオ(CVRD)の性能を比較した.

   RP MRD CVRD
Return 1.3401.6213.816
Risk 1.7284.2196.152
Sharp Ratio 0.7760.3840.620
Omega Ratio 1.1451.1171.205

複素リスク分散ポートフォリオは累積リターンとオメガレシオにおいてリスクパリティポートフォリオと リスク分散ポートフォリオを上回っている. リスクを最小化という目的に対して, リスクパリティポートフォリオは債券に偏った配分を行う傾向があることが確認されている. そのため, リターンは小さいながらもリスクも小さく抑えられており, シャープレシオは相対的に大きくなっている. 一方で債券に偏った配分を行なっているため, それらの債券に大きな値動きが生じた際には ポートフォリオそのものが債券の値動きに引きずられてしまう. 複素リスク分散ポートフォリオでは債券への偏りが改善されているため, このようなことは生じにくい. これはリスクの寄与度を最適化していることからの帰結である.

今後の発展

本稿では複素共分散行列に基づいた複素リスク分散ポートフォリオを紹介した. 今後の発展性の一つの方向性として, 複素共分散行列を四元数共分散行列に拡張するものが考えられる. また, 従来から実共分散行列に対して行われているのと同様に, 複素共分散行列の推定にも時間平均による 統計量を用いた. しかしながら, ランダム行列理論が指摘するように大規模な共分散行列の推定量に時間平均量を 用いると推定誤差が増大してしまう. そのため, 複素共分散行列の推定方法に改善の余地はある.
従来のリスク分散ポートフォリオ同様に, リスク寄与度の算定に主成分分析が用いられている. この手法は線形の相関構造のみ抽出しているため, カーネル主成分分析やisomap等の非線形の相関構造を 抽出する方法に拡張することで, より性能を向上させられる余地がある.

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